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東京高等裁判所 昭和26年(う)1241号 判決

控訴人 被告人 宮城徳清

検察官 田中良人関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人及び弁護人満園勝美の各控訴趣意は別紙本判決書末尾添付の各控訴趣意書記載のとおりであるから当裁判所はこれに対する判断を次のように説示する。

弁護人の控訴趣意第一点について、

本件起訴状に所謂罰条として食糧管理法第九条第三十一条、同法施行令第十一条、同法施行規則第二十九条を掲記しているのは本件のような所謂経済法令違反の所為についてはその犯行当時即ち昭和二十四年三月二十一日当時施行の右関係法令を摘記したものと認むるを相当とすべきであるから右起訴状記載の罰条は結局所論昭和二十四年法律第二百十八号による改正前に施行せられていた食糧管理法第九条第三十一条を示したものというべく従つて所論のように特に該法令施行の年次法律番号等を明記しなかつたからとて違法と為すことはできない。従つてこれを前提とする公訴棄却の主張は採用すべき限りでない。

同第二点について

所謂主要食糧を単一な輸送の委託によつて輸送した場合その輸送の委託は該輸送の必然的前提を為すに過ぎない輸送行為の一部であるから所謂輸送をもつて処断すべき場合にはこれを包含せられたゞ輸送の委託をしたが未だ輸送と為すを得ざる場合にその輸送の委託を独立の有責行為として処罰する趣旨であることは食糧管理法施行規則第二十九条並びにその関係法令に照し明白なところである。而して本件起訴状を査閲するに「小麦紛を鉄道小荷物扱に委託して輸送したものである」というのであるから所謂主要食糧の輸送の処罰を求むる趣旨であるが原判示事実はこれを所論のように「右小麦紛を鉄道小荷物扱として係員に対し輸送を委託したものである」と認定したことは明瞭である。しかし原審は前説示の事由によつて未だ輸送したと認むるを相当ならずとし右輸送の必然的前提を為す輸送行為の一部をなすその委託行為のみの成立を認定したものというべく従つて所論のように審判の請求を受けない事件について審判しまた審判の請求を受けた事件について審判しない違法があるとの非難は適切ではない。また斯る場合起訴状に委託して輸送したとある以上輸送を委託した行為は当然にこれを包含されておるものと認められるから必ずしも訴因変更の手続を要すべき筋合のものでないから論旨は結局理由がない。

(同第三点及び被告人の控訴趣意についての判決理由は省略する)

(裁判長判事 小中公毅 判事 細谷啓次郎 判事 河原徳治)

弁護人満園勝美の控訴趣意

第一、原判決は不法に公訴を受理した違法がある。 起訴状には公訴事実と罪名を記載すべきことは刑事訴訟法第二五六条により明らかである。罪名は罰条をかかげてなすべきであるが、その罰条は公訴事実と相俟つて審判の対象を特定する機能を有するものであるとせられている。果して然らば、罰条が改正せられしかも改正前の行為に対しては仍従前の例によるべき旨が定められている場合には罰条が行為当時に施行せられていたことを明らかにするために、法律番号をもつて罰条を特定しなければならない。本件公訴事実に適用すべき罰条は昭和二四年法第二一八号にて改正前の食糧管理法第三一条、第九条であるから、この旨を附記しなければならない。然るに、起訴状は単に食糧管理法第九条、第三一条としたに過ぎないから、罰条の記載を誤つたものである。かかる場合検察官は罰条の変更を請求することができるし、裁判所はその変更を命ずをことができるが、ついに最後までいづれの措置もとられなかつたので、裁判所としては公訴状が不適法のものとして公訴を棄却すべきであつた。これを怠つたのは不法に公訴を受理したことに帰し、破毀を免れない。

第二、原判決には審判の請求を受けた事件につき審判せず、審判を受けない事件につき審判をした違法がある。起訴状によれば「被告人は………約五十五貫を鉄道小荷物扱に委託して輸送したものである」。としている。これは委託した行為と輸送した行為とを併せて起訴したものか、輸送した行為のみを起訴したものか明瞭を欠くが、少くとも輸送の委託をした行為を起訴したものとみることはできない。従つて、裁判所は輸送を委託した行為については裁判することができない。蓋し委託して輸送した行為と輸送を委託した行為とは全然別個の訴因であるからである。

然るに、原審が訴因変更の手続を履まず訴因には含まれていない輸送を委託した行為について有罪を認めたのは違法で破毀を免かれない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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